更新日 : 2013-12-12 06:44:06
空気がなくても生きられるオオユスリカの幼虫
なにがすごいの?
夜道を照らす街灯の周りには、光に誘われてやってきた小さな虫達が飛んでいます。
集まっている虫達の中で特に多いのが、ユスリカという昆虫です。
オオユスリカは体長約1センチメートル、最も大きなユスリカの仲間です。
春や秋にたくさんの仲間が幼虫から成虫になり(羽化)、交尾と産卵をして、数日~1週間で死んでいきます。
オオユスリカの幼虫は「アカムシ」と呼ばれ体長は最大で3センチメートルにも及び、湖や池の底の泥の中で暮らしています。
泥の中は、成長に必要な栄養はたくさんありますが、呼吸に必要な酸素がほとんどありません。
オオユスリカの幼虫は、なぜ苦しくないのでしょうか?
彼らは魚の鰓(えら)のような気管鰓(さい)で水に溶けた酸素を取り入れているのです。
酸素は体に入ったあと、運動のためにすぐに使われる場合と、酸素がなくなった時のために貯めておく場合があります。
血液の中にはヘモグロビンという酸素とくっつきやすい色素があります。
ヘモグロビンのおかげで、体の中に酸素を貯めることができるのです。
酸素が足りない時には、貯めてある酸素だけで9分間も生きることができます。
どうやって役立てるの?
ヘモグロビンのような働きを持つ物質は、色々な成分を集めたり貯めたりするのに便利です。
例えば災害があった時に、雨水や川の水から有害な成分だけを取り除けば、飲み水にすることができます。
車や工場の排気ガスから、二酸化炭素や有害ガスを取り除くことで、温暖化防止にも役立ちます。
どんな研究をしているの?
ユスリカのヘモグロビンに関して研究が行われています。
ユスリカのヘモグロビンは、脊椎動物(背骨がある動物)よりも酸素とくっつきやすい(結合しやすい)性質を持っています。
研究では、ヘモグロビンに結合する最大酸素量のうち、半分の酸素が結合する時の酸素分圧を測りました。
酸素分圧とは、気体や液体のなかにある酸素だけの圧力のことです。
空気中の酸素分圧は約155mmHgです。
さて、人間のヘモグロビンに酸素が結合する時は27mmHgの酸素分圧が必要です。
対して、ユスリカのヘモグロビンは0.6mmHgでした。
つまりユスリカのヘモグロビンは、人間より少ない酸素量でも、酸素と結合することができるのです。
どうしてこんなに酸素と結合しやすいのでしょう。それは、ヘム穴(またはポケット)のおかげです。
ヘム穴はヘモグロビンが酸素をつける場所にあります。
酸素がない時は、ヘム穴の外にあるアミノ酸が外側にぶら下がっていて、酸素が中に入りやすくなっています。
酸素が入ると、アミノ酸が酸素分子の周りをきっちりと抑え、さらに酸素分子とつながって固定します。
酸素が入りやすいヘム穴と、酸素を抑えるベルトのようなアミノ酸によって、酸素分子はしっかりとヘモグロビンにくっつくのです。
どんな技術開発ができるの?
ヘモグロビンの酸素をとってそのまま貯めておくという働きは、情報を伝える・配る・保存するといった技術開発に役立つかもしれません。
ヘモグロビンの働きをコンピューターの中に組み立てれば、ある決まった情報が流れてきた時に自動的に保存され、その情報が必要になった時は配信してくれるシステムができるでしょう。
例えば、地震が起こった時の震源地や震度、被害状況などの情報を保存します。
次に地震が起こった時に、保存してある情報の中から同じ場所の情報を取り出し、その地域の人たちに災害状況や対策などを一斉に伝える、といったものです。