更新日 : 2013-08-29 09:43:52

カイコのインターフェロン工場

なにがすごいの?

カイコは幼虫からさなぎになるときに、自分の体を守るためにマユを作ります。
マユを作り出す時のカイコの体長は8センチ前後、体重は6グラム前後です。
こんなに小さいカイコですが、吐き出し続ける絹糸の長さは1800メートルに達することもあります(参考「カイコは自然の製糸工場」)。

人による養蚕の歴史は数千年と非常に長く、これまでの私達は、カイコの吐き出す絹糸そのものに注目して絹織物を作ってきました。
しかし、最近では別の視点からカイコを利用しようという取り組みが進められています。

カイコが吐き出す糸は、セリシンとフィブロインという2種類のタンパク質から成っており、原料となるのはカイコがせっせと食べ続けた桑の葉なのです。
カイコは、いわば桑の葉を原料にタンパク質を作り出す自然の「工場」なのです。

さらに、絹が高級繊維であることからもわかるように、タンパク質を作り出す「工場」としてのカイコは、とても優秀なのです。

どうやって役立てるの?

カイコの優れたタンパク質生産能力に遺伝子組み替え技術を用いれば、組み替えタンパク質を使った医薬品の大量生産ができるようになります。

つまり、「絹糸用のタンパク質を作る」というカイコの遺伝子情報を、「別のタンパク質を作る」というものに変えてしまうのです。
一匹のカイコが作り出すタンパク質の量は、重さにしておよそ数百ミリグラムとわずかですが、絹糸を作るのと同じように大量生産することができれば、医薬品を作るのに十分な量のタンパク質を確保することができます。

タンパク質の生産方法には、遺伝子を組み換えた大腸菌という菌を培養する方法もあります。
この方法では菌を培養するための大きな水槽がたくさん必要であり、また菌がうまく培養できるようにいろいろ条件を整えてやる必要があります。
しかし、カイコを利用する方法では、カイコ自身が最適な条件でタンパク質を作るので大規模な設備は必要ありません。
これまでの養蚕と同じように桑の葉でカイコを育てればよいのです。

どんな研究をしているの?

カイコの遺伝子組み換え技術を利用して、実際に犬や猫用の薬に使われるインターフェロンというタンパク質が作られています。

インターフェロンとは、動物の体内に侵入したウイルスを攻撃して、その増殖を抑える働きを持つタンパク質です。
カイコに自由に遺伝子を導入し、安定してその性質を維持させる仕組みが研究されています。

また、より効率の良いタンパク質の生産・回収方法を探す研究が進められています。

どんな技術開発ができるの?

医薬品の生産と聞くと、大きなタンクを備えた工場を想像するかも知れません。
こういった印象は、遺伝子組み換えカイコを使った医薬品の大量生産の方法の確立で、大きく変わるかも知れません。

また、日本の伝統的産業である養蚕は、石油を原料とした安い化学繊維の登場で廃れてしまいましたが、カイコをタンパク質工場として利用する上で、養蚕の技術の重要性が再び見直されているところです。

【参考】
・「カイコを用いたタンパク質医薬品製造」繊維学会誌 Vol. 63、 No. 9 (2007)、 pp.266-269.
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