更新日 : 2013-08-28 17:57:08
ワイルドシルクで美しく
なにがすごいの?
2種類のタンパク質、セリシンとフィブロインからなるカイコのシルク(絹糸)が持つ繊維としての優れた機能については、「
人に優しいクモの糸」でも紹介しましたが、その他にも優れた効果がたくさんあることがわかっています。
・ 生体親和性(タンパク質なので生体に馴染みやすい)
・ 保湿性(乾燥から守る)
・ 紫外線を遮断(皮膚の老化や皮膚がんの原因となる紫外線を遮断)
・ 生分解性(分解して土に返すことができる)
・ 無味無臭(味も臭いもない)
・ 脂肪を吸着性(脂肪を包んで体外へ運ぶ)
・ 消化されにくい
白い絹糸を吐いて繭を作るカイコは、数千年という長い年月をかけて、人間が改良しながら養蚕のために家畜化した昆虫(家蚕)です。
自然界にはカイコの他にも糸を吐いて繭をつくる野生のガの幼虫が何種類もいて、それらは「ワイルドシルク(野蚕:野生のカイコ)」と呼ばれています。
インドネシアでは、なんと黄金色の繭を作るクリキュアという名の野蚕が生息しています。
ワイルドシルクの繭は、紫外線をほぼすべて遮断する事がわかっています。
カイコのサナギは紫外線に非常に弱く、少しでも浴びてしまうと健康な成虫に羽化できないからです。
飼い慣らされてしまった家蚕のカイコと違って、厳しい自然環境に生きるワイルドシルクだからこそ、紫外線をしっかり遮断する繭が必要なのでしょうね。
どうやって役立てるの?
シルクの持つ(セリシン・フィブロインの)特徴を生かした、化粧品やダイエット健康食品が実際に開発されています。
紫外線カット、生体親和性の高さ、油脂を吸着する機能を保ったままゲル状・パウダー状にすることで、ファンデーションなどの下地化粧品やスキンクリームに利用されています。
また、脂肪を吸着し、消化されにくいという機能を応用して、ダイエット健康食品として商品化されています。
シルクは無味無臭なので、素材となる食品の風味を損なわないのが特徴です。
どんな研究をしているの?
東京農業大学の長島助教授の研究室では、シルクを様々な分野へ応用するための研究が行われています。
美容・食品以外では、溶かしたシルクを様々に成形して、石油製品の代わりにする研究が行われています。
タンパク質由来のシルク製品は分解して土に返す事ができるので、新しい素材として注目されています。
また、インドネシアに生息する黄金の繭を作るクリキュラは、これまで作物を食い荒らす害虫として嫌われてきました。
天然の黄金のシルクに日本伝統の養蚕技術を応用することで、インドネシアでは国を挙げてこれを産業化する試みが行われています。
どんな技術開発ができるの?
石油由来の化学製品よりも安全な、天然素材でできた子供用のおもちゃの制作に役立てることができます。
また住宅の壁紙に利用すれば、化学物質によるアレルギーのようなハウスシックがなくなるかも知れませんね。
また、要らなくなったシルク製品は、溶かしてから別の正製品に成形することで、何度でも再利用が可能になります。
分解して最後は土に返すこともできるので、これからの「エコ」に適応した環境に優しい素材となる事が期待されています。
クリキュラの養蚕が実用化されれば、天然の黄金色絹糸をふんだんに取り入れた衣装が流行するかも知れませんね。
【参考】
・
東京農業大学 農学科昆虫学教室