更新日 : 2013-12-07 08:37:08
自ら集合する、小さな分子
なにがすごいの?
ワインをグラスに注ぎ、手にもったグラスを水平に回してしばらく待つと水滴が上がっていくのがみえます。
これは「ワインの涙」とよばれる、注がれたワインが、グラスの壁面を表面張力(分子と分子が引っ張り合っている力)により上昇した先端で、目に見えないほど小さな水滴が同じ間隔で形成されてできる現象です。
この現象は、ワインの中のアルコール分と水分の蒸発に仕方が違うことによって起こります。
例えば、寒い日に窓ガラスに息を吹きかけると、窓ガラスは曇ります。
吐く息に含まれる水分が、細かい水滴となってガラス面にくっついて曇らせるのも、雪の結晶やイワシ雲も、いずれも自然に出来上がり、独特のパターンを作り上げる「自己組織化」と呼ばれる現象です。
どうやって役立てるの?
(C)
東北大学 下村政嗣
自然界に存在するさまざまな美しい構造やすばらしい機能は、「自己組織化」と呼ばれる現象により自発的に形成されています。
「ワインの涙」のように、物質を構成する最小の固まりである分子が独自のパターンを示すメカニズムを利用することでナノレベル(ナノは10億分の1、目に見えないくらい小さいサイズ)の構造を自由にデザインすることも可能でしょう。
どんな研究をしているの?
東北大学の下村教授は、水滴の自己組織化現象を利用して、「プラスチック自らの力で、分子をナノレベルで整列させられないか?」と考えました。
シャーレと呼ばれる容器に高分子(多数の原子が共有結合してできる分子)の溶液を雫(しずく)状に落として、大気中の水分を結露させます。
その水滴を鋳型として溶液を蒸発させると、規則正しくナノサイズの孔が配列するフィルムができました。
次に、湿度を変えて、同じ方法で実験してみたところ、蜂の巣型(ハニカム、リンクを張る)の構造が規則的に並んだ美しいフィルムの作製に成功しました。
またこの実験から、周りの温度や湿度をコントロールすることで、鋳型となる水滴の大きさを自在に操れることが分かりました。
これは蜂の巣型のとても薄い膜なので、ハニカムフィルムと呼ばれています。
どんな技術開発ができるの?
自己組織化によって作られたハニカムフィルムは、いわば、野菜の水気を切るときに使うざるをナノサイズにしたようなものです。
これを利用して、ナノサイズでの物質の仕分けが可能となります。
例えば、大きさの異なる白血球や赤血球などの血液成分の分離や、タンパク質やDNAを分離するナノフィルターとして利用することができます。
平坦なフィルムの上で肝臓の細胞を培養しても、細胞は死んでしまいます。
しかし、この自己組織化によって作られたハニカムフィルムの上では、肝細胞が自己的に集まって塊状になることで、細胞群が肝臓としての機能を持つのです。
また、人体に害を及ぼさない分子でフィルムを作れば、体の外で肝細胞を培養した後、そのまま肝臓に移植することも可能となります。
このフィルムを使って、人工肝臓や肝臓移植に代わる再生医療の研究ができるでしょう。