更新日 : 2013-08-14 19:39:32
ヤママユガはがん細胞を眠らせる
なにがすごいの?
ヤママユガは日本に昔から生息している蛾の一種です。
ヤママユガのメスは、秋に卵を産みます。
しかし冬の間は、卵の中で幼虫は眠ってしまいます。
実は、冬の間、幼虫は体内で細胞を眠らせる休眠物質「ヤママリン」を分泌しています。
ヤママリンで幼虫の細胞の活動は一時的に停止して、厳しい冬を乗り切るのです。
そして暖かい春がくると、幼虫は目覚めて活動を始めます。
ヤママユガの幼虫は、ヤママリンを分泌することで、「眠っている状態」を作りだし、自ら細胞分裂を抑制し、冬眠する態勢を整えているのです。
冬の間、動き回るよりも春に活動を開始したほうがヤママユガにとっては生き残っていくのに快適なのでしょう。
どうやって役立てるの?
ヤママリンの持つ細胞の休眠作用は、がんの治療に役立つ可能性があります。
正常な細胞は、DNA(生物の遺伝情報がつまった物質のこと)の情報によって細胞分裂のペースや限度がコントロールされていますが、そのDNAに異常が生じると際限なく分裂を繰り返しがん細胞となるのです。
がん細胞を眠らせることで、その分裂・増殖を止める事ができれば、新しいがんの治療法となるかも知れません。
がん細胞が増殖しないということは、がんによる病状がそれ以上悪化しないということだからです。
このような治療法は今までにない新しい方法です。
また農業では、害虫を眠らせることができれば農薬の代わりにも使うことが出来ます。
どんな研究をしているの?
ヤママリンについての構造研究や機能解析が行われました。
その結果、ヤママリンには哺乳類のがん細胞の増殖を停止させる効果があることが分かりました。
また、コナジラミやコナガなどの作物に害を与える昆虫の卵に対しても休眠作用を持つことも分かりました。
ヤママリンの効果を強めた物質「強力ヤママリン」についての研究や、ヒトに対する安全性に関しての研究も進んでいます。
どんな技術開発ができるの?
1)農作物に大きな被害をもたらす害虫の成長を抑える、新しい農薬の開発が期待されています。
2)がん細胞を「眠らせる」ことでその増殖を抑えるという、新しいがん治療の開発が期待されています。
これまでの抗がん剤は正常な細胞にも大きな影響を与えてしまうので、副作用が大きいのが問題でした。
しかし、がん細胞を休眠させる「静(制)がん剤」を使った新しい治療法が開発できれば、今までの抗がん剤のように正常な細胞を攻撃することがないため、副作用は少ないと考えられます。
【参考】
・岩手大学農学部農学生命課程応用昆虫学研究室 鈴木幸一 教授「昆虫の有する特殊な機能の解明とその応用開発」