更新日 : 2013-12-01 09:52:22
水をはじいて汚れない蝶の翅
なにがすごいの?
蝶の翅が汚れているのを見たことはありますか?
もし、蝶の翅に汚れがつけば、翅は重くなって飛べず、天敵が襲ってきたときや、餌をとるために飛翔することができません。
そこで、蝶は翅の上に、ある細工をして翅を汚れにくくしています。
電子顕微鏡でモルフォ蝶の翅の表面にある鱗粉を観察すると、長方形の小さな細胞の上に針のように細い突起が同じ方向に並んでいるのがわかります。
この微細構造によって水ははじかれ、水滴となって同じ方向に流れていくのです。
水滴は、周りの汚れをも巻き込んで、重力や風やはばたきの振動の力によりひとりでに落下するので、蝶は何もしなくても、常に翅を美しく保っているのです。
どうやって役立てるの?
モルフォ蝶の翅の表面は、疎水性の微細構造によって水や汚れをはじき、同じ方向を向いている突起に促されて決まった方向に流れ落ちます。
モルフォ蝶の翅の構造を、屋根、布などの材料の表面に取り入れて、撥水性を持たせることができるでしょう。
どんな研究をしているの?
水をはじく
ハスの葉のように、小さな針状突起が多数存在するモルフォ蝶の翅の構造について研究されました。
マイクロ構造の隆起部(1000~1500nm)と、ナノ構造の鱗粉(40x80ミクロン)で構成されるモルフォ蝶の翅の表面と水滴との接触角度は、150度より大きく、水が非常に転がりやすい超撥水性を持つことがわかりました。
また、針状の突起は、同じ方向に向いており、水滴、そして水滴に引き付けられる汚れが同じ方向に落ちるよう促すことがわかりました。
※撥水性は水による濡れにくさの事で、表面の化学的性質と物理的形状で決まります。
固体表面と水滴との接触角が撥水性を示す目安で、一般には接触角が90度以上を撥水性、110度~150度を高撥水性、150度以上を超撥水性(ちょうはっすいせい)となります。
また、長距離移動する蝶(アサギマダラなど)と、あまり移動をしない蝶(シジミチョウなど)の撥水性を比べた結果、長距離を旅する蝶の仲間ほど、その翅が有する撥水性が高いことが分かりました。
そして、日本⇔台湾を長距離移動することで知られるアサギマダラの重なり合う鱗粉と鱗粉との間の角度が30°であることがわかり、この角度がアサギマダラの長距離移動を可能にする鍵だと考えられています。
※二つのものが接する場合、その接触面には界面張力という電荷が引き付きあう力が生じます。
気体と液体間の界面張力は特別に表面張力と呼ばれ分子が安定しようと内側に向かう力が生じます。
空気−固体間の界面張力は、水−固体間の界面張力よりも小さく、固体表面は水と接しているよりも空気と接していた方が安定なため、空気との接触面積を増やそうする結果、空気は凸凹の層に閉じ込められます。
一方、はじかれた水は、水そのものが持つ表面張力によって球状となり、微細構造の表面との接触角を大きくし、超撒水性を生み出します。
更に、汚れ粒子は、水と固体間の自然な界面張力と、微細構造による接触角の縮小によって水滴にくっつきます。
どんな技術開発ができるの?
表面をセルフクリーニングするこの構造は、実際に塗料、ガラス、繊維などに応用されています。
界面活性剤やエネルギー、人の手を用いずに汚れを落とせるので、経済的です。金属の表面に構造を取り入れ、食べ物の容器にすることで、腐食防止の効果が期待されます。
【参考】
・Collins, M. 2004. Design and nature II: comparing design in nature with science and engineering. Southampton: WIT.
・Waterproof and translucent wings at the same time: problems and solutions in butterflies.
・Perez Goodwyn P, Maezono Y, Hosoda N, Fujisaki K. Naturwissenschaften. 2009 Mar 26.
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[超撥水ゲーム]aqua drop -アクアドロップ-