更新日 : 2013-08-06 09:13:07
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かじって磨くネズミの歯

なにがすごいの?

リス、ネズミ、ビーバー、カピパラ・・・これらの動物に共通するのは、幅広く先端のするどい歯(門歯)を持つことです。
これらの動物は齧歯(げっし)類と呼ばれています。
門歯は1対ずつ、計四本の歯が上下のあごからしっかりと生えていて、色々なものをかみ切るのに役立ちます。
門歯は敵への反撃や植物をかじるための道具として使われますが、生え変わるのでは、その最中に、敵が襲ってきても反撃できません。
げっ歯類の歯は、生え変わらないように進化したのです。

門歯は一生伸び続けるので、硬いものをかじることで常に削っていなければ、やがて歯が伸びすぎて物を食べることが出来なくなってしまうのです。
ペット化されたリスやハムスターはあまり硬いものを噛まなくなってしまったので、人の手で彼らの歯を切ってあげなくてはならないことも起きています。

野生のげっ歯類の門歯は、歯の外側と内側とですり減り方に差があります。この差は、歯の外側の表面が硬く厚いエナメル質、内側が軟らかい象牙質からできているために生じます。
つまり、上顎の門歯が下顎の門歯をこすると内側の象牙質だけが削られて無くなり、外側のエナメル質がさらされて、物を削るのに適した「のみ」のような鋭い状態が保たれるのです。
これを自己鋭利化とよび、門歯は効率的な方法で鋭い状態が保たれているのです。
因みに、げっ歯類の学名「Rodentia」は、ラテン語の「かじる(齧る)」という意味で、この特徴ある「齧(かじ)る歯」をもつことから、げっ歯類とよばれるのです。

どうやって役立てるの?

紙を切るはさみ、食材を切る包丁、木を切る剪定ばさみなど、私たちの身の回りには刃が使われた道具がたくさんあります。
使っているうちに刃が鈍くなってしまうので、定期的に研いで、時には新しく購入しなければなりません。

自己鋭利化するげっ歯類の歯の仕組みを応用した刃であれば、手入れを気にせず、長い間切れ味を保つことができます。
またげっ歯類の歯の形成メカニズムを解明することで、私たちの歯の治療に役立てることも期待できます。

どんな研究をしているの?

日本の大学では、この伸び続ける門歯に着目し、げっ歯類の仲間であるネズミの門歯の形成過程が研究されました。
その結果、ネズミの門歯が二つの細胞によって永久的に伸び続けていることが判明しました。

また、この細胞を培養し、他のネズミの歯に埋め込むことで、実際に歯を再生することに成功しました。
歯の形成のメカニズムを更に詳しく解明することができれば、私たちの失った歯の跡に移植して新しい歯を再生させることで、入れ歯を必要としない新しい歯の治療として期待することができるでしょう。

どんな技術開発ができるの?

自己鋭利化するげっ歯類の歯のメカニズムを、産業や工業で使用する機械の刃に利用できるでしょう。
例えば、トラクターの刃の部分にげっ歯類の歯の仕組みを応用すれば、刃が劣化することがないので、常に深く土を耕すことができるでしょう。

歯の再生治療の人への応用が成功すれば、毛髪や肝臓、腎臓などの臓器も再生することができるようになるかも知れません。

【参考】
・Attenborough, D. 1979. Life on earth. Boston, MA: Little, Brown and Company. 319
・George McKay; Fred Cooke; Stephen Hutchinson; Richard Vogt; Hugh Dingle. 2004. The Encyclopedia of Animals: A Complete Visual Guide. Berkeley: University of California Press. 608 p.
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