更新日 : 2013-07-23 06:11:34
カンガルーネズミは保存上手
なにがすごいの?
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Dr. Lloyd Glenn Ingles California Academy of Sciences
カンガルーネズミは雨も植物も少ない北アメリカ南部の砂漠に住む哺乳類です。
「カンガルー」から連想されるように、このネズミの特徴である長い後ろ足と長いしっぽは、乾いた砂漠平原をジャンプして移動するように適応したものです。
カンガルーネズミは地下に穴を掘って暮らしています。
また、砂漠地帯の気温は日中40℃以上にもなり、体温調節の為に汗をかくとそれだけ水分を失うので、涼しくなった夜にだけ餌をとりに巣の外に出ます。
カンガルーネズミは水をほとんど飲まず、えさとなる植物の種に含まれる水分でだけで生き延びます。
できるだけ種の水分を失わないように、種を保存する巣づくりにも工夫を凝らします。
巣の出入り口は数ヶ所あり、日中は出入り口にふたをして巣穴の湿度を外に逃がさないようにしています。
巣の中には通路とつながったいくつかの小さな部屋があり、ひとつの部屋の直径は25センチメートル程でなんと6キログラムもの種を保存できます。
巣の出入り口から一番深いところにある貯蔵室は比較的湿気が少なく、逆に地表近くの貯蔵室はとても湿度が高く、カビや菌類が活発に繁殖しています。
カンガルーネズミは種に含まれる微妙な水分の量を感知する能力が発達しており、種に含まれる水分を失わないよう、種を最適な貯蔵室へ運ぶのです。
どうやって役立てるの?
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Ilaria Mazzoleni
私達にとっての食糧貯蔵システムに応用することができるでしょう。
長期保存できるカンガルーネズミの巣の仕組みを利用することで、電気を使わない作物の貯蔵システムも可能となるでしょう。
どんな研究をしているの?
アメリカの学者がカンガルーネズミの食糧貯蔵方法について研究しました。
その結果、水が最も少ない砂漠に住むカンガルーネズミが、よりカビの生えた種子を食べていることが観察されました。
カンガルーネズミはわざと種のカビの繁殖を活発にすることで、種に含まれる水分を多くしていたのです。
カンガルーネズミは種(炭水化物)を摂取すると、空気中から取り込む酸素と炭水化物内の水素を体内で結合させ、水を生成していたこともわかりました。
また、あるイネ科の種の場合、種につくカビの活動によって発酵が進み、栄養価を高めていたことがわかりました。
また別の研究では、カンガルーネズミは二つの方法で種を貯蔵していることがわかりました。
一つは一箇所に長期的に種を保存する方法で、もう一つは、少しずつ色々な場所に種を保存する方法です。
こうして種を二つに分けて貯蔵することで、砂漠の生活に適応しています。
どんな技術開発ができるの?
昔から日本には、カンガルーネズミのように地下で作物を貯蔵する技術があります。
地下むろという、作物の保存のために、地下に穴を掘った穴蔵のことで、主に大根やサツマイモなどの根菜が保存されてきました。
多くの地下むろには貯蔵室が一つしかなく、湿度をコントロールすることが出来ません。
しかし、カンガルーネズミの貯蔵室は幾つもあり、しかも深さによって湿度と温度が違うので、作物を移動させることによって保存環境を変えることができます。
みそ、納豆、漬物、チーズなど、これらはいずれも微生物に助けよって発酵させた、私たちの生活に欠かせない発酵食品です。
レベルの違う幾つかの貯蔵室をもつカンガルーネズミの巣は、この構造を利用して、いろいろな種類の発酵食品を適した環境で長期間保存することができるようになるかもしれません。
【参考】
・STACKING OF SEEDS CHANGES SPOILAGE DYNAMICS OF FOOD CACHES OF THE
BANNER-TAILED KANGAROO RAT (DIPODOMYS SPECTABILIS)José Herrera, Kari L. Ensz, and Amy L. Wilke Journal of Mammalogy 2001
・
Biomimicry#2Architecture’s look on Wildlife/Fauna | Y Magazine(英語)