更新日 : 2012-11-24 11:18:36

りん粉で光を集めて暖かいチョウ

なにがすごいの?

ガやアゲハを含むチョウの仲間は、沢山のりん粉で覆われた翅を持っています。このりん粉の大きさや並び方(微細構造)の違いによって、鮮やかな青(モルフォチョウの構造色)や撥水性(モルフォチョウの撥水性)が生まれます。

熱帯雨林に生息する世界最大のアゲハチョウの仲間、トリバネチョウは黒い羽に青や緑の模様を持ちます。
トリバネチョウのりん粉は、重なることで六角形のハニカム構造をしたミクロサイズの模様を作り出します。

太陽の光は、ハニカム構造によって屈折して黒い色素まで伝えられ、吸収されます。光エネルギーはそこで電子エネルギーに変わり、やがて熱に変換されます。

こうしてトリバネチョウは、黒い色素だけでなく、その特殊な構造によって光を上手く吸収しているのです。

どうやって役立てるの?

沢山のりん粉が並んでできるハニカム構造のパターン
(C) ZangDi
現在の太陽電池に使用されているシリコン半導体は限られた光しか吸収できません。
しかし、色素増感型の太陽電池は、色素によって多くのエネルギーを取り込むことができますが、その多くの光は散乱によって損失してしまうので、吸収率がよくありません。

蝶の翅のりん粉の構造をヒントに、太陽電池の熱の吸収率を高めることができるかもしれません。

どんな研究をしているの?

液体や個体の屈折率は空気に対しての値で、水の屈折率は1.3です。
トリバネチョウのりん粉の屈折率は1.6と更に高く、色素が光を最大限に吸収できる最適な設計をしていることがわかりました。

この構造に入射した光は屈折し、黒いメラニン色素で吸収されます。

どんな技術開発ができるの?

太陽の熱をより有効利用できる色素増感太陽電池の開発に取り組んでいる中国と日本の研究者は、効率的に光を吸収するりん粉の特殊な構造に着目し、これを鋳型にした色素増感太陽電池を作りました。

ハニカム型の多孔質二酸化チタン薄膜を使って開発された色素増感太陽電池は、太陽の利用効率を高めるため、これまでで最高の変換効率の世界最高水準を10%まで引き伸ばしました。

※変換効率
太陽光のエネルギーに対し、太陽電池から取り出せる最大のエネルギーの割合
蝶の翅と同じ漆黒色で鱗粉を模倣した構造(ハニカム構造)をもつ色素増感型太陽電池は製作も簡単なので、デバイスの早期実現に貢献する可能性があります。
これを使えば、私たちが必要とする全てのエネルギーを色素増感太陽電池で発電できるかもしれません。

【参考】
・Vukusic, P., Sambles, J. R. & Lawrence, C. R. Structurally assisted blackness in butterfly scales. Proceedings of the Royal Society of London B, published online, doi:10.1098/rsbl.2003.0150 (2004).
・Gr tzel, M. Nature 2001 414 338
・Zhang et al. Novel Photoanode Structure Templated from Butterfly Wing Scales. Chemistry of Materials, 2009; 21 (1): 33 DOI: 10.1021/cm702458p
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