更新日 : 2013-11-12 06:53:53
しわを作ってスイスイ泳ぐイルカ
なにがすごいの?
イルカは、水の中から空中にジャンプをして私たちを楽しませてくれますね。
海の中にいるイルカは時速50kmで水中を泳ぐことができ、これによって見事なハイジャンプがきまります。
イルカは尾びれを動かして前進しますが、水中を高速度で泳ぐためには、皮膚の構造が大きな役割を果たします。
水の密度は空気の800倍もあり、水中にいるとその抵抗を感じます。
これは、水中で泳ぐと体に沿って小さな渦(乱流渦)が発生するためです。
この渦はやがて体の後ろに移動し、体を引っ張る力となり推進を妨げる抵抗となります。弾力性に富むイルカの皮膚はくぼみ(凹)を作り、高速度で泳ぐ際により発生する抵抗をクッションのように受け止めるのです。
こうしてイルカは、抵抗を気にせずに、高速度で泳ぐことができるのです。
どうやって役立てるの?
抵抗を抑えていて効率的に泳ぐイルカの皮膚の構造をヒントに、空気や水の抵抗に強い素材が開発されるかもしれません。
どんな研究をしているの?
生物研究者のグレイは、イルカの高速泳法について研究を行いました。
どうして速く泳げるのか不思議に思った彼は、イルカの遊泳速度が約25ノット、時速にして50km/ hと推定しましたが、この泳速度に必要な筋肉は、実際のイルカが持つ筋肉の七倍以上となります。
つまり、イルカの持つ筋肉だけではこの速さは出ないと、説明できないことがわかりました。
多くの研究者がイルカについて研究していますが、その速さの秘密は未だに謎で、グレイのパラドックスと呼ばれています。
その後、イルカの高速泳法について、幾つかの発見がありました。
スポンジのように水分を吸収するヒドロゲルで覆われた表皮、真皮、脂皮の三層から構成されるイルカの皮膚はツルツルしており、ゴムのように弾力があります。イルカの推進によって頭から尾に移動する水圧に対して、イルカの皮膚はしわをつくり水圧を吸収するクッションの役目をします。
また、イルカの皮膚のしわの突起の部分(凸)が発生した渦を抑える効果があります。
イルカの皮膚は二時間ごとに再生されます。
最近の研究では、剥が落ちる皮膚がイルカの皮膚の表面にできる乱流渦を抑制し、抵抗を抑えているとも考えられています。
どんな技術開発ができるの?
日本のあるスポーツウエア会社は、イルカの皮膚にヒントを得て、生地が伸ばされると凹凸が発生する素材を、アルペンスキー用スポーツウエアとして開発しました。
通常なら、頭や背中に、空気が当たると、大きな渦ができて後ろに引っ張る力が増しますが、イルカの皮膚のような凹凸利用した素材を使用することで、乱流渦は小さくなり、後ろに引かれる力が減ります。
必要なスピードに達してはじめて凹凸が現れるようにすることで、抵抗を最小限にするものとなりました。
アメリカの研究者は、イルカの皮膚と同じように機能する、カーボンナノチューブとシリコンでできた人工皮膚を開発しました。
シリコンの持つ伸縮性によって、電気が通りやすく、外部の刺激によって変形するカーボンナノチューブの人工皮膚は、飛行機や電車、風力発電の羽など空気抵抗を受ける部分に取り付けることで、空気抵抗を抑えることが期待されます。
※カーボンナノチューブ:人の髪の毛のおよそ1万分の1の太さで、強度のある円筒状の炭素で出来た物質。電気反応によって自由自在に形を変形することが可能です。
【参考】
・Kramer "The dolphins' secret", New Scientist, 5 May 1960, p1118
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カーボンナノチューブ : 富士通研究所
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イルカ君アシカ君
・動物たちの生きる知恵 生命35億年のハイテク. ヘルムート・トリブッチ、工作舎、1995